高田の荒神さんは昔から腰の据わらん神さんで、昔のことじゃが、「今住んどる八嶋はハア(もう)飽ぁだけえ、よそへ替わる」言うて、光泉寺の薬師さんに頼み込んで、薬師さんといっしょに住むことになったんじゃそうな。
初めのうちはどういうこともなかったんじゃが、ある日のこと夜中に、薬師さんのお堂の中から、ドシンドシンいう音が聞こえてきたそうな。近所の人々は、犬か猫でもお堂に入って暴れとるんじゃろう、ぐらいに思うとったんじゃが、日がたつにつれて、その音がだんだん大きゅうなって、しまいにゃあ、まわりの家にまで響いてきて、夜も眠られんようになった。
ほいで、薬師堂の世話をしよった加藤さんが隣の相役の山口さんに相談して、二人で提灯をさげて見に行ったんよ。そうしたら、境内に入ったとたんに音が止んだんじゃそうな。二人でお堂の中へ入って見たが、何も変わったことはなかった。「おかしいのう」と言いながら二人はお堂から出て家へ帰ったんじゃが、ところが、帰るとすぐにまたお堂の中からドッタンバッタンと大きな音がするんじゃと。
「ははあ、こりゃあ誰か悪戯の好きな者が、わしらをセビラカソウ(からかおう)
思うて、わざとやりよるんじゃの。ハア取り合うまいや」
言うて、二人はその晩はそれで済ましたんじゃと。
ほいじゃがなんよう、それからも毎晩々々大きな音がするもんじゃけえ、ろくに眠られんで往生しよったんじゃそうな。ほいである晩、加藤さんと山口さんは、
――よしッ、今夜こそひっ捕まえたろう!
いうて決心して、音がしだすのを待っとったんじゃそうな。そうしたら、夜中にやっぱり音がしだしたんじゃと。ところが、どうしたわけか、その晩に限って「ドッシーン!」と大きな音が一つしただけで、それっきり何の音も聞こえて来んかった。不思議に思って、二人でそーっと境内に入って見たら、なんとそこに荒神さんが投げ出されて転がっとったんじゃと。魂げたのなんの。
「誰かいのう、こんな罰当たりなことをする者は」
いうて、荒神さんを抱き起こして、丁寧に泥を払って、お堂の中へ入れてあげたんじゃと。そうして、隣の薬師さんを見たら、こりゃあまたどうしたことか、お身体にいっぱい泥がついとって、あっちもこっちも痛んどるし、怒ったような顔をしておりんさる。それを見て二人は
「ははあ、こりゃあ荒神さんと薬師さんが喧嘩ぁしとっちゃったんじゃわい。薬師さんが荒神さんを追い出そうとしとってんじゃろう」
と気がついたんじゃそうな。
そこで二人で相談して役場へ行って、「なんとかしてくれんさいや」いうて頼み込んで、ほいで今の所へ社を建てて、荒神さんに住んでもらうことにしたんじゃと。そうしたら、それっきり薬師堂の音は止んだんじゃそうな。 |