伝説2 神仏・聖者の事業

荒神こうじんさんと薬師さんの喧嘩けんか(能美町)
 高田の荒神さんは から腰の据わらん神さんで、昔のことじゃが、「今住んどる八嶋はハア(もう)飽ぁだけえ、よそへ替わる」 うて、光泉寺の薬師さんに頼み込んで、薬師さんといっしょに むことになったんじゃそうな。
  めのうちはどういうこともなかったんじゃが、ある日のこと夜中に、薬師さんのお堂の中から、ドシンドシンいう が聞こえてきたそうな。近所の人々は、犬か猫でもお堂に入って暴れとるんじゃろう、ぐらいに うとったんじゃが、日がたつにつれて、その音がだんだん大きゅうなって、しまいにゃあ、まわりの にまで響いて て、夜も眠られんようになった。
 ほいで、薬師堂 の世話をしよった加藤さんが隣の相役の山口さんに相談して、二人で提灯ちょうちんをさげて見に行ったんよ。そうしたら、境内に入ったとたんに音が止んだんじゃそうな。二人 でお堂の中へ入って見たが、何も変わったことはなかった。「おかしいのう」と言いながら二人 はお堂から出て家へ帰ったんじゃが、ところが、帰るとすぐにまたお堂の中からドッタンバッタンと大きな がするんじゃと。
「ははあ、こりゃあ誰か悪戯わるさの好きなもんが、わしらをセビラカソウ(からかおう)
うて、わざとやりよるんじゃの。ハア取り合うまいや」
  うて、二人はその晩はそれで済ましたんじゃと。
 ほいじゃがなんよう、それからも毎晩々々大きな がするもんじゃけえ、ろくに眠られんで往生しよったんじゃそうな。ほいである晩、加藤 さんと山口さんは、
――よしッ、今夜 こそひっ捕まえたろう!
 いうて決心して、 がしだすのを待っとったんじゃそうな。そうしたら、夜中にやっぱり音がしだしたんじゃと。ところが、どうしたわけか、その に限って「ドッシーン!」と大きな音が一つしただけで、それっきり の音も聞こえて来んかった。不思議に思って、二人でそーっと境内に入って たら、なんとそこに荒神さんが投げ出されて転がっとったんじゃと。たまげたのな の。
「誰かいのう、こんな罰当たりなことをするもんは」
 いうて、荒神 さんを抱き起こして、丁寧に泥を払って、お堂の中へ入れてあげたんじゃと。そうして、 の薬師さんを見たら、こりゃあまたどうしたことか、お身体にいっぱい泥がついとって、あっちもこっちも んどるし、怒ったような顔をしておりんさる。それを見て二人
「ははあ、こりゃあ荒神 さんと薬師さんが喧嘩ぁしとっちゃったんじゃわい。薬師さんが荒神さんを い出そうとしとってんじゃろう」
 と がついたんじゃそうな。
 そこで二人 で相談して役場へ行って、「なんとかしてくれんさいや」いうて頼み込んで、ほいで の所へ社を建てて、荒神さんに住んでもらうことにしたんじゃと。そうしたら、それっきり薬師堂の は止んだんじゃそうな。
(話者 大儀正夫)

大儀正夫氏が20歳頃、加藤義太郎・山口謙一両氏(共に故人)から聞いた話。