高祖の宝原川の上流、水源付近の谷間を「門の久保」と呼んでいますが、一名「神の久保」とも呼ばれています。
昔は大木が生い茂って、昼なお暗い淋しい森でした。そこにはきれいな水が湧いていて、旅役者たちが拝みに来たといわれています。いつ、誰が置いたものかわかりませんが、泉のほとりに三つの水瓶がありました。土地の人はこれを「神のツボ」と呼んで、大変尊んでいました。
ある時、一人の漁師がここを通りかかりました。そして、きれいな水に驚き、船に持って帰ろうと、この瓶に水を入れて抱え上げようとしました。ところが、どうしたことか急に腹が痛くなってきたのです。
――これは、きっと神様の祟りに違いない。
と、額を地にすり付けて、お許しを請いました。すると、不思議に痛みが無くなったということです。
またある時、一人の農夫が夜の明け切らぬうちに柴刈りに出かけ、この久保にさしかかりました。すると、なんとそこには、手に榊の杖を持った白髪の老人が立っているではありませんか。そして、
「わしは、この山の守り神じゃ。こんな夜明けに、ここに来るではないぞ」
と言うて聞かせました。農夫は、
――夜の気配が残っているうちは、人間が入って来ると嫌がられるんだな。
と察して、それきり早朝の山行きは止めにしました。それからというものは、この農夫には何事もなく、天寿を全うしたそうです。
これは、土地の豪農が盗賊から財宝を守るために水瓶に入れ、淋しい森の奥を選ん埋めて、山に入ることを禁制にしたんじゃ、とも言い伝えられています。
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