昔、まだ時計もなく、鶏の鳴き声を夜明けの合図にしていたころの話です。
ある日、大黒神島で大王村の人が畑を耕し、野菜を作ろうとしていたところへ、深江村の人が通りかかりました。そして、
「うちの村の土地にものを作るとは何事けぇ。この島はうちのもんじゃあないけぇ」
と言い張りました。大王村の人も負けてはいません。
「わしは前々からここへものを作りに来よるんじゃ。自分の所に作るのが、どしていけん。『早い者勝ち』言うじゃあなぁか」
と、争いが始まりました。深江村の人は、
「この島は、うちの村の目と鼻の先にあるんじゃけえ、近い方のもんじゃ。遠くの者がそう言うのはおかしなことじゃ」
一方、大王村の人は、
「ンニャ(いや)見てみい。この島はうちの村の真沖にあるじゃあなぁか。あっちの村の者が、こっちにある島を自分のものじゃ言うて、それこそおかしな話じゃ」
お互いに言い分があって、どうしても譲ろうとはしませんでした。
そこで、「用意ドン!」で競争して、勝った方の島にしよう。一番鶏が鳴いたら舟を漕ぎ出して、先に島に着いた方の勝ちにする、という話がまとまりました。深江村では、鶏にしっかり鳴いてもらおうと、うんと餌を食べさせ、一方の大王村では、漕ぎ手が負けんように御馳走を食べさせて、早く寝せました。
さて、あくる朝、腹を減らせた大王村の鶏は、いつもより早く一番鳴きを始めました。それを合図に、大王村の漕ぎ手は「待ってました」とばかり一生懸命沖へ漕ぎ出しました。一方、うんと餌を食べてぐっすり眠った深江村の鶏は、二番鶏になってしまったのです。遅れをとった深江村は大急ぎで舟を出し、懸命に漕いだので際どい勝負になりましたが、深江村の人たちが跳び下りた浜辺には、すでに大王村の人たちの草鞋が投げ捨てられていました。
こうして、大黒神島は大王村のものになったということです。 |