旧高田村字新宮という所に、お萬さんいうて、気立ての良い独り者の女の人が住んでおったそうな。毎日、半里(約二キロ)もある遠崎の畑へ、行きも帰りも重い荷を背負うて、仕事に行っとった。
ある日のこと、お萬さんが夜になっても帰って来んので、近所の人たちは「どうしたんじゃろうか」と心配しとった。
「海にハマッタ(落ちた)んじゃあなかろうか」
「急な病で、どこかで倒れているんじゃあなかろうか」
ホイデ(そこで)、陸を探す者と舟で探す者と手分けをして、みんなで探したんじゃが、見つからんかった。
あくる日、お萬さんの畑へ行ってみたら、負い篭があった。
「こりゃあ、そんなに遠くへは行っとらんド」
いうので、またみんなで手分けをして、まわりを探してみたら、山の中のデミ(泉・水源)の所で死んどるのが見つかったんじゃそうな。みんなで懇ろに葬ってやったそうなが、どうして死んだのかわからん。「頓死じゃろう」「いや、ハミ(まむし)に噛まれて毒が回ったんじゃろう」「そうじゃあなかろう。水を飲む時に、きっとヒイル(蛭)もいっしょに飲んで、血を吸われたんじゃろう」……皆であれこれセンガン(憶測)してみたが、結局、誰も本当のことはわからんかった。
やがて、お萬さんが死んだデミを、誰ともなく「お萬殺しのデミ」と呼ぶようになったんじゃそうな。今日では、「お萬ごろし」と言えばこの泉のことじゃが、どんな日照りの年でも水が涸れたことは無あそうな。気立ての良かったお萬さんのことじゃから、親切にしてくれた村の人たちへのお礼に、このデミを守ってくれとるんじゃろうて。 |