伝説21 山・峠の由来

たこ落とし峠のいわれ(江田島町)
 むかし、小用こように家が五、六軒、人は二〇人ぐらいしか住んでおらんかったころのことよ。山田 いう所のある男が、山田から小用へ出とった友達の所へ遊びに来て、「久しぶりにタコでも捕りに行くか」いうて、かごを提げて海岸へ下りて行ったんじやそうな。そのころは、山には木が繁って、山すそは海岸まで延びていて、海もきれいで、どこでも や魚がたくさん捕れよったんよのう。
 二人はたちまちタコを五、六匹捕って帰って、小用の友達の家でそれをでて、酒を飲みながら世間話 をしているうちに、二人ともいい気分に酔うてしもうた。気がついたら、もう日が れて月が出ていたので、
「わしゃあぬる(帰る)でぇ」
 言うて、男はタコを一匹籠に入れて、 へ向かって歩きだしたんよのう。ところが、身体からだじゅうがポカポカしてエエ(良い)気分だったもんじゃけえ、峠の天辺てっぺんでひと休みしたら、ついウトウトして ってしもうたんじゃ。しばらくしてから冷たい風に目を覚ました は、
――しもうたッ
 と思うて慌てて を持って、急いで山田の里へ帰ったんよのう。
 あくる日は、が高くなったころに目を覚まして、
――さて、きのうの獲物 のタコは。
 と籠をのずいて見たら、タコはおらん。さてはと思うて、きのう寝込んだ峠まで行って四方八方を探してみたが、タコの姿 はどこにも見えん。
――こんなイツ、どこへ げやがったんかのう?
 と小用の海岸の方を見ると、松の の根元に、何かゴミのような物が見えたんじゃげなよ。ようく れば、なんとタコじゃあないか。
――こんなイツ、こがぃな に逃げちょりやがった。
 男はそのタコをつかまえて帰って、近所の人に自慢 げに話したんじゃそうな。
 それからのち、この峠を「蛸落とし峠」いうて ぶようになったんじゃと。
伝承者 竹本輝雄)