森木(地名=小高い丘の上にある)にゃあクロガネモチの大けな木が二本あった。一本は枯れて、今ぁ一本だけになっとるがノ、根元の周りが六〜七メートルはあるかのう。この木は春になると花をいっぱい咲かせるんで、その蜜を吸いに蜜蜂がマア来るは来るは、群がってやって来るんじゃ。その時には、蜜蜂の羽の音が森木じゅうに広がってのう、ちょうど飛行機が通る時のような音がするんよ。ほいじゃが、今までにただの一遍も実を付けたこたぁ無あ。あれだけ花が咲くのに実が無あいうのは不思議なことでぇ。この木の下に祠があるんじゃが、ナシテ(なぜ)あるかいうたらノ、こういういわれがあるんじゃそうな。
昔から夏になるとノ、この島は水が少のうなって、どこでも困りよったんよ。この森木は高ぁ所にあるんで、特別に困りよった。毎日丘の下へ水ぅ汲みに行くなぁアマナ業(ちょっとやそっとの苦労)じゃあなかったんよ。ほいで、この丘に井戸を掘ろういう話が出たんじゃが、
「高ぁ丘の上に掘っても、水が出るんかのう?」
言うて、みんな二の足を踏んだのよ。じゃが、
「ここに井戸がありゃあ、みんなが楽になるでぇ」
いうんで、あのクロガネモチの木の傍に掘ることにしたんじゃ。そうして掘ってみたら、なんときれいな水が出て来たんよ。ほいで、よう見るとノ、その水はクロガネモチの根を伝わって土の中から湧いて来よったんじゃげな。
「こりゃあ、この木に神さんが宿っとってんじゃ。そして、わしらに水を恵んでくれたんじゃ。有難いこっちゃ」
言うて、みんな喜んだ。それで、この木の下に祠を建てて、水神さんを祀ったんよ。 |