むかしは小学校一年生になると、子ども組に入っていました。近所の子どもたち五、六人または七、八人が集まって、いっしょに遊んだり、草刈りなど子どもにも出来る仕事を協力し合ってしたりする、仲良しグループです。そして、それぞれのグループには、みんなを統率する上級生がいました。いわゆる「ガキ大将」です。力が強くて、何でも知っているし、仕事も上手にやってのけます。危ない時には、仲間を守ってくれます。その代わり、言うことを聞かずにワルサ(悪戯)をした時には、怒鳴られたり、ゲンコツを落とされたりした、コワイ兄ヤンでした。 大正九年(一九二〇)四月、天気の良い日曜日でした。朝早く兄ヤンが家へ来て、 「オイ、コッパぁナデぇ(枯れた木の葉や小枝を拾い集めに)行こうや」 と誘ってくれました。ワシ(私)はすぐに鎌とコッパサデ(竹製の熊手)を手に、籠を背負って飛び出しました。子ども組はもうみんな揃っていました。ワイワイ言いながら山を登って行きましたが、その途中で、兄ヤンが、 「きょうは、トントン山へ行って遊ばんかいや」 と言ったのです。ワシら小マイ(小さい)者にとっては、初めて聞く山でした。 コッパをナデて、荷造りが出来ると、 「さあ、これからトントン山へ行くぞ」 と、兄ヤンを先頭にして出発しました。
しばらく行くと、草も木も生えていない、三、四坪ぐらいの盛り上がった平地がありました。兄ヤンがその上へ上がって、真ん中辺りを棒でたたくと、「トントン」と、太鼓のような音がするのです。
「ここがトントン山じゃ。トントンと音がするけえ、トントン山いうんよ」
なるほど、と思いましたが、どうして太鼓のような音がするのか不思議でした。みんなで代わる代わるたたいて遊びました。トントンという調子に合わせて歌を歌う者もいました。そのうち、兄ヤンが、
「オイ、たたくのを止めて、わしの話を聞けえや」
と言ったのです。 「なんでコガイナ(このような)音がするかいうとのう、ここは鬼が棲んどる家の屋根の上なんじゃ。鬼は、みんなが何をしよるんか、わかっとるんでぇ。ホイデ(それで)、みんなが棒でたたくのに調子を合わせて、赤鬼やら青鬼やらが下で太鼓をたたきよるんよ。ホイジャケエ(それだから)、トントンいう太鼓の音がするんよ。ソリャア(それは)のう、『たたくのを止めんと、出て行って捕って食うちゃるド』いう合図なんじゃ。一番ジョウニ(たくさん)たたいた者から先に食うんじゃと」 それを聞いたワシら小マイ者は、いや魂げたのなんの、一目散に走って去にましたよ(帰りました)。 その時の兄ヤンは、もう九十二歳(平成十年(一九九八)当時)になりました。先日、久しぶりに訪ねましたら、 「元気ゅう出して、もう一度トントン山へ行きたいのう。まだ音が出るかのう?」
と話していました。
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