世間話31 人間の運命・因縁

火事から を守ってくれたジッチャン
                           (能美町)
 いつごろの話か知らんが、鹿川かのかわ村の漁港の近くに貧相な格好をしたジッチャンがやって来て、「何か恵んでくれえ」言うて、家々 を回って歩きよったんじゃそうな。ヨウ(よく)見りゃあ、そのジッチャンは、薄汚 れたよれよれの着物を着て、腹の所に大きな袋を げておった。
 もともとこの辺りの人は人情が厚うてのう、自分はとても人助 け出来るような楽な暮らしじゃああのに、困っとる人を見りゃあ、ヨウ(よく)助けてあげよったもんじゃ。それで、このジッチャンが来ると、米一合あげるとか、ぜに一銭あげる家が多かった。中には御飯 を食べさせる家もあった。それで、ジッチャンは毎日々々恵みを受けにやって来よった。それでも、 の人たちは嫌な顔をせずに毎日恵んであ よった。
 ある のこと、ジッチャンは御飯を食べさせてもらった後、その家の人に、
「わしゃあ、こんなに毎日、心のこもったほどこしを受けたのは初めてじゃ。このまま黙ってんで(帰って)は申し訳無あ気がする。 かみんなにしてあげたぁが、何が かろうかのう」
 と うた。その家の人は、とっさには何も思いつかんかった。
 そうしたら、ジッチャン が、
「ここらの人が一番オトロシイ(恐ろしい)と思うとることは、何かあかのう」
 と ねた。そこで家の人はハッと気がついて、
「そうじゃ。ここらは家がいっぱい て込んでおっての、火事になりゃあすぐ家から家へ火が燃え移って、みんな け出されてしまう。火事が一番オトロシイよの
 そ したら、ジッチャンが、
「よっしゃ。それならお に、ここらが火事にならんように守っちゃる」
 と言うて、家を てどこかへ行ってしもうた。
 それからというものは、この辺じゃあ大けな火事は今まで一ぺんも無あでよう。
 (話者 長江 平)

長江氏が古老から聞いた話。いつごろのことか不明。