世間話34 勘兵衛夜話

大須おおず地名の由来(第二話)
 今から 百数十年前の夏のある日、空は真青に晴れわたり勘兵衛一家は総出で畑仕事に精出 していた。
「なごう(長い間)魚を食わんのう。今日は雑魚ざこでも買おうか」
 勘兵衛さんは仕事を めて浜辺へ出て行った。ちょうど漁船がたぐり網を引いていた。「沖の 、雑魚を少しわけてくれんかいのう」
 にこにこ笑いながら勘兵衛 さんは言った。
「われ(お前)みたいな大入道 に食わす魚はないわい」
「そういわずにたのむ。子ども らがほしがっとるのでのう」
「うるさいのう、 そじじ。欲しけりゃこれでもくらえ」
 若い漁夫が海豚(注 海鼠なまこの誤りか)を、ぶっつけた。
「何をし がる」
 勘兵衛はおこった。裸になると に入り船を岸にひきつけた。
をするんだ」
 驚く漁夫 をのせたまま、ずるずる舟をひきあげる。さすが八人力の怪力、六尋の漁船がロクロでまかれるようにずるずる へのぼっていく。
 漁夫は くなって声も出ない。「どっこいしょ」松林まで舟を引き上げた勘兵衛さんは大きな岩に腰を下ろして煙草 を吸いはじめた。
「わや (無茶苦茶に)しやがる」
 二人の漁夫 は汗だくになって舟をおろそうとするがどうにもならぬ。
「おじさん、わしらが かった。こらえてくれ」
 二人は頭を下げた。勘兵衛 は笑いながら、舟をおろしてやった。
 その晩の食ぜんは大小の魚でにぎわっていた。
疾風はやて、渦潮二丁でにげる。しけよりこわい大坊主の浦」
 近辺の村々へ大坊主の のうわさがひろがっていった。延享二年(一七四五)こうぞ畑の開拓届を出す勘兵衛さんは、大おう須地主勘 兵衛と書きしるした。大須の名が公式に世に出た最初 であろう。
 大坊主―大おう須―大須、これが地名 のおこりらしい。