今から二百数十年前の夏のある日、空は真青に晴れわたり勘兵衛一家は総出で畑仕事に精出していた。 「なごう(長い間)魚を食わんのう。今日は雑魚でも買おうか」 勘兵衛さんは仕事を止めて浜辺へ出て行った。ちょうど漁船がたぐり網を引いていた。「沖の衆、雑魚を少しわけてくれんかいのう」 にこにこ笑いながら勘兵衛さんは言った。 「われ(お前)みたいな大入道に食わす魚はないわい」 「そういわずにたのむ。子どもらがほしがっとるのでのう」 「うるさいのう、くそじじ。欲しけりゃこれでもくらえ」 若い漁夫が海豚(注 海鼠の誤りか)を、ぶっつけた。 「何をしやがる」 勘兵衛はおこった。裸になると海に入り船を岸にひきつけた。 「何をするんだ」 驚く漁夫をのせたまま、ずるずる舟をひきあげる。さすが八人力の怪力、六尋の漁船がロクロでまかれるようにずるずる浜へのぼっていく。 漁夫は青くなって声も出ない。「どっこいしょ」松林まで舟を引き上げた勘兵衛さんは大きな岩に腰を下ろして煙草を吸いはじめた。 「わやに(無茶苦茶に)しやがる」 二人の漁夫は汗だくになって舟をおろそうとするがどうにもならぬ。 「おじさん、わしらが悪かった。こらえてくれ」 二人は頭を下げた。勘兵衛は笑いながら、舟をおろしてやった。 その晩の食膳は大小の魚でにぎわっていた。 「疾風、渦潮二丁櫓でにげる。しけよりこわい大坊主の浦」 近辺の村々へ大坊主の浦のうわさがひろがっていった。延享二年(一七四五)楮畑の開拓届を出す勘兵衛さんは、大おう須地主勘兵衛と書きしるした。大須の名が公式に世に出た最初であろう。
大坊主―大おう須―大須、これが地名のおこりらしい。
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