大坊主の浦のうわさが拡がると近辺の力自慢がぞくぞく力くらべにおしかけて来た。しかし誰も勘兵衛にかなう者はなかった。うわさは遂に、広島の城下にまで伝わった。城下に宮田某という力自慢の武芸者がいた。このうわさを聞いて腹をたて、 「こしゃくな勘兵衛、拙者が負かしてくれる」 と舟をやとって大須にのりこんだ。 「勘兵衛、拙者が相手になる。腕押しでこい」 「ようがんす。ちょっと待ちんさい」 そういうと勘兵衛さんは大きな桑切庖丁を取り出し砥石でごしごし研ぎだした。きれいに研ぎあげた大包丁を一ふりすると雑木がばさっとぶっ倒れた。「よう切れるのう」刃を改めながら勘兵衛さんはつぶやいた。 「さあ、御武家さん。あんたも刀をぬきんさい」 「腕押しに刀を何とする」 宮田某は不しんそうに聞く。 「両側に刃物をおいて、勝った方が相手の腕を押し切るんでさあ」 勘兵衛さんはこともなげに言ってのけた。 「うーん」 流石荒武者の宮田某もうなった。 「勘兵衛、おまえの度胸にゃ負けた」 宮田某は力くらべをやめて帰っていった。
“大須の勘兵衛 おに勘兵衛”
押さずに勝った鬼勘兵衛。勘兵衛の名は、またまた高まった。
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