世間話35 勘兵衛夜話

鬼勘 兵衛(第三話)
 大坊主の のうわさが拡がると近辺の力自慢がぞくぞく力くらべにおしかけて来た。しかし誰も勘兵衛 にかなう者はなかった。うわさは遂に、広島の城下にまで伝わった。城下に宮田某という力自慢の武芸者 がいた。このうわさを聞いて腹をた
「こしゃくな勘兵衛 、拙者が負かしてくれる」
 と舟をやとって大須 にのりこんだ。
「勘兵衛、拙者 が相手になる。腕押しでこい」
「ようがんす。ちょっと ちんさい」
 そういうと勘兵衛さんは大きな桑切庖丁くわきりぼうちょうを取り出し砥石といしでごしごし研ぎだした。きれいに研ぎあげた大包丁 を一ふりすると雑木がばさっとぶっ倒れた。「よう切れるのう」刃を改めながら勘兵衛 さんはつぶやいた。
「さあ、御武家 さん。あんたも刀をぬきんさい」
「腕押しに を何とする」
 宮田某 は不しんそうに聞く。
「両側に刃物 をおいて、勝った方が相手の腕を押し切るんでさあ」
 勘兵衛 さんはこともなげに言ってのけた。
ーん」
 流石さすが荒武者の宮田某もうなった。
「勘兵衛、おまえの度胸 にゃ負けた」
 宮田某は くらべをやめて帰っていった。
 “大須の勘兵衛  おに勘兵衛”
 押さずに勝った鬼勘兵衛 。勘兵衛の名は、またまた高まった。
文章内にある「腕押し」は、腕相撲のこと。