昔話1

トクボ (能美町)
 むかし、ある ところに、オトッタン(お父さん)とオカン(お母さん)とトクボという の子がおったそうな。
 オトッタンはトクボが可愛かわゆうて可愛ゆうて、毎日仕事から戻るとトクボを自分のそばに置いて、そりゃあ可愛いがったもんじゃと。オカンはトクボの継母ままははじゃったげなが、オトッタンがトクボをあんまり可愛 いがるもんで、だんだんトクボが憎らしゅうなって、しまいにゃあオトッタンが仕事 に出たあとで、子どもにゃあ無理なエラァ(つらい)仕事 をさせて、「ヨウヤラン(上手にできない)」言うては怒鳴りつけ、「怠けとる」言うては棒切 れでたたきよった。それで、トクボの顔や手足に生傷 が絶える時が無かったんじゃそうな。
 それでもトクボは、オトッタンがそ 傷を見て、「ドシタンド(どうしたのか)」と尋ねても、「 んだ」とか「木にブチ当った」とか言って、オカンにたたかれたことなど一言ひとことも言わんかったそうな。
 ある日、オトッタンが仕事から戻って見ると、トクボがおらん。脚絆きゃはんを脱ぎながら
「トク は」
 と くと、オカンは、
「ありゃあ へ行ったまんま、まだ戻って来んで」
 と答えたそうな。オトッタンはたまげて、
「日も暮れとるのに らんのは、こりゃあ山で何かあったんド」
 と言って、右足の脚絆 を脱いで、まだ左足の脚絆は取っとらんかったが、そのまんま急いで山へ行ったそうな。そうして、あっちの 、こっちの山と、森の中や谷 を、
「ト ボ」「トクボ」
 と大声で びながら探し回ったんじゃそうな。ホイデモ(それでも)、トクボは つからんかった。見つからんはずよう。トクボはかわいそうにオカンに殺されて、床の下のイモガマ(いもを貯蔵する穴)に隠されておったんじゃそうな。
 そんなことは知らんオトッタンは、何日 も家へ帰らずにトクボを探し続けているうちに、くたびれて、くたびれて、もう一足 も動けんようになって、とうとう山の中で んでしもうたんじゃそうな。
 それでも、死 だオトッタンは鳥に生まれ変わって、「トクボ」「トクボ」と鳴きながら、 でもトクボを探し続けているんじゃと。ホイジャケエ(それだから)、トクボ は右足は白くて、左足は脚絆をつけたまんまだったので、黒いんじゃそ な。
 (話者 大儀ハル)

片脚脚絆かたあしきゃはん」(大成 58)
大正13年ごろ、大儀正夫 さんが10歳ぐらいの時に、能美町高田の生家で母ハルさんから聞いた話。当時 、ハルさんは45歳ぐらいだった。