むかしのことよ。ある夏の日、トコロ天がうまいころのことよのう。その男の子は生まれつき胃腸が弱くて、よく下痢をするんじゃそうな。だから、親父は「トコロ天を食わすなよ」と、日ごろからオカア(母親)に言うとったんじゃが、
――少しぐらいなら、エエ(よい)じゃろう。 と、オカアはその子にトコロ天を食わしてやることにした。そいじゃが、親父に知られると叱られるので、「言うな」「言うな」と言いながら食わしたんじゃそうな。食うてみりゃあ、うまかったので、その子はヨウケイ(たくさん)食うてしもうた。 ところが夕方になって、案の定、その子は「腹が痛い」と言いだした。そこへ親父が帰って来て、 「どうしたんなら」 ときいたら、その子は腹を押さえて、情けなげに親父の顔を見上げたんじゃそうな。 「何か悪いものでも食うたんじゃろう。トコロ天を食うたなッ」
「いや、トコロ天は食やぁせん。『言うな』を食うた」
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