辰五郎と、江田島太郎は、麦畑で話していた。
「辰五郎さん。ひどう長いこと見だったのう」
「おお、朝鮮近海まで、漁に出かけておったのよ」 「して、ドガァな(どんな)ぐあいじゃったかのう」 「ドガァもコガァも(どうもこうも)あるもんかい。山のようなものへぶつかって、進むに進まれず、退こうにも退かれず、にっちもさっちも行かないで一週間ぐらい、そのままにしておったのよ」 「そいで、よう帰って来たのう」 「うん、はじめは死ぬるかと思うちょった。とぐろを巻いた海蛇じゃった。たまげたのなんのいうてありゃせんで」 「そいで、ドガァにしたんの」 「わしゃ、目を皿のようにして、にらみゃげちゃった」 「海蛇は、どうもせだったかの」
「うん、五月で、暖かくなるのを待ちよったんじゃろう。海蛇は、南へくだっておらなくなったで」 「そりゃ、よかったの」 「もうちいとおったら、食べるものも無くなるし、食うちゃるんじゃったんじゃにのう。惜しいことをしたと思うちょるよ」
「ぎょっ。たいした肝っ玉じゃのう」
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