辰五郎が、東海道の旅に出た。見れば大変駕籠屋が困っている。 「もっと早う行かんかい。駕籠屋なら駕籠屋らしく、揺らさんようにもっと上手に担げ」 「上手に担いどると思うちょる。わしら一生懸命じゃ」 「嘘つけ。とにかく弱った。休んでくれ」 さっきから、この様子を見ていた辰五郎さん。 「駕籠屋さん。私が代りましょう。駕籠に乗ったお客さん、ちと文句が多いようですのう」 「いや、わしらの商売じゃけん」 「銭を取ろうと言うのじゃない。お客のわがままを懲らしめちゃるんじゃ。貸せい」 言うが早いか、二人で担いでいたのを一人で担ぎ、足速に歩きだした。川の橋にさしかかった。 「お客さん。休んでくれ言うから休んじゃるで」 駕籠を川の面へつっぱり出して、担ぎ棒を橋の一端に掛け右足で踏んで、橋の欄干に腰を掛け、大きなキセルを出して、煙草をスッパスッパと吸っている。 「駕籠から出してくれ。頼む」 その度に右足を上げれば、グラッと傾く。 「助けてくれッ!」 駕籠から外を眺むれば、川の面である。顔面が真っ青になる。辰五郎は、上がってくる担ぎ棒を、また右足で踏む。 文句を言う度に、辰五郎は右足を上げたり、踏んだり。 「ヒャアッ! こらえてくれ、駕籠屋様」
駕籠の中のお客は、青息吐息だったという。
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