世間話1
神仏の霊異
大黒神島へ渡る大
蛇
(大柿町)
私が
十五歳
ぐらいのころ昭和二十三年(一九四八)ごろの話です。夜、大黒神島と「我が島」の間で、
父
といっしょに底引き網の漁をしていました。ところが、網が破れて全然魚が捕れなくなったのです。
家
へ帰って網を修理して、あくる晩もう一度漁に出ましたが、また網が
破
れて漁になりません。それから後も、網を引く綱が切れたり……そんな
出来事
の繰り返しで、父は困り果てていました。その辺りは網が破れたり、引き綱が切れたりするような
海底
の状況ではないのです。長年漁業をしてきた父にとっては、こんなことは初めてで、
不思議
でなりませんでした。
「これは、ただ事ではない。何か人間には測り知れないことがあるのだろう。
神様
を
信
じるほかはない」
と、父は
一心不乱
に船神さんにお祈りをしました。すると、船神さんのお告げがあって、父は私にこう
話
してくれました。
「
大蛇
が我が島から大黒神島へ渡ろうとしていた、その先をわしらの船が通ったのだ。その大蛇は、わしらの船の船神さんより
位
くらい
が上なので、失礼千万だと大変怒って、
網
を破ったり、引き綱を切ったりしていたんだそうな。まことに申し訳ないことをした。それで、『お
赦
ゆる
しを
乞
こ
うためには、どんなことをしたらよいでしょうか』と船神さんに聞いたら、『
鶏
の卵を大黒神島と〈我が島〉の間の海に流せ』と
言
われた」
と言うのです。その当時は、
卵
が簡単に手に入る時代ではありませんでしたので、母は難儀をして、ようやく二〇
個
の卵を買い求めて来ました。父はさっそくその卵を紙箱に詰めて、船神さんのお
告
げがあった海へ流しました。それからというものは、あの
沖
で漁をしても、網が破れたり、引き綱が切れたりするようなことは無くなりました。今の
世
の中では考えられないような、不思議な実話です。
(話者 二間孝行)