世間話4 妖怪の奇異

天狗てんぐの止まり松(江田島町)
 むかしのことよ。江田島 八幡神社の裏から山田へ抜ける峠の道に、それはそれは大きい立派 な松があってのう、目周り三〜四メートルもあったじゃろうか、高さは二〇メートルぐらい、 が横に張って格好のエエ(良い)松でのう、人々はこの松を「権現松」と呼んで、うやまったり、恐れたりしとったもんじゃ。
 ある日のこと、その松の天辺てっぺんに天狗が止まってのう、向地の浜でイワシ漁をしとった漁船 に向かって、
「しっかり れエッ、しっかりやれエッ!」
 いうて、八つ手の葉の団扇うちわで応援しよったんじゃそうな。その日のイワシ漁は大 じゃったそうな。
 天狗は空を自由に飛べるいうことじゃけん、ナンデモ(おそらく)天応てんのう(地名。対岸の呉市)の天狗山 から飛んで来たんじゃろうてぇ。吉浦にも「天狗の腰掛け松」いう があるいうことじゃけん、ここら辺を飛び回っていた天狗が、江田島にも たんじゃろう。
 ホイジャガ(しかし)その天狗 を見た者は、その場ですぐに股ぁ引き裂かれて殺されるいうことでぇ。ジャケン(だから)誰もその天狗を見たいうもんはおらん。
 江田島の「権現松」は本当 にあったんで、その根株は今でも峠に残っとるよ。
(話者 山佐一男)