むかしのことよ。江田島八幡神社の裏から山田へ抜ける峠の道に、それはそれは大きい立派な松があってのう、目周り三〜四メートルもあったじゃろうか、高さは二〇メートルぐらい、枝が横に張って格好のエエ(良い)松でのう、人々はこの松を「権現松」と呼んで、敬ったり、恐れたりしとったもんじゃ。 ある日のこと、その松の天辺に天狗が止まってのう、向地の浜でイワシ漁をしとった漁船に向かって、 「しっかりやれエッ、しっかりやれエッ!」 いうて、八つ手の葉の団扇で応援しよったんじゃそうな。その日のイワシ漁は大漁じゃったそうな。
天狗は空を自由に飛べるいうことじゃけん、ナンデモ(おそらく)天応(地名。対岸の呉市)の天狗山から飛んで来たんじゃろうてぇ。吉浦にも「天狗の腰掛け松」いう松があるいうことじゃけん、ここら辺を飛び回っていた天狗が、江田島にも来たんじゃろう。
ホイジャガ(しかし)その天狗を見た者は、その場ですぐに股ぁ引き裂かれて殺されるいうことでぇ。ジャケン(だから)誰もその天狗を見たいう者はおらん。
江田島の「権現松」は本当にあったんで、その根株は今でも峠に残っとるよ。 |