世間話6 妖怪の奇異

ぐんひん(天狗てんぐ)さん(江田島町)
 村の鎮守ちんじゅの秋祭りでのう、氏神様の境内で、太鼓をダンガラダンガラ叩きよったら、物見岩から屋形石まで、ちょうど運動会で万国旗を吊るしたように、千生せんな提灯ちょうちんが下がったことがあった な。みんなは、
「ぐんひんさんの仕業 じゃッ!」
 とたまげて、目をひっくりむいだげな。
 ある のことよのう。物見岩の方に、火の塊があったそうじゃ。ぐんひんさんの火は、一つの塊になっていて、その塊の中心から四方へ向けて、パッと いよく飛び散って ったそうな。
 ぐんひんさんは、 の節穴から見られたり、人差指でさされるのが、ひどう嫌いじゃげなのう。昔は板戸 じゃったけん、どうしても二つや三つ、節穴はあったよのう。家の中には庭土間 があった。そこへ肥えタゴを置いて、小便していた。タゴいうたら木のおけよ。便所 は外にしか無かったし、外へ出ると淋しいし、冬には寒いので、肥えタゴを土間へ置いて用を足し、あくる日、外の肥壷 へうつしていたのよ。ある日、太郎兵衛さんが肥えタゴへ小便 をしに行ったら、外が何か異様な雰囲気でのう、板戸の節穴から外を見たら、太郎兵衛 さんの目をめがけて、パラパラッと砂をまかれてのう、「ヒャッ!」と気絶 したんじゃげな。
 また、吾作 と吉松はのう、体術を修業していて、とてもとても強かった。なんでも、足の指先だけ縁側 に掛けて、気合いを入れると、大の男三人が引っ張っても動かなかったそうな。そんなに い二人が連れ立って歩いていて、ぐんひんさんとすれ違いざま、目にも止まらぬ早業 で取って投げられた。そして、したたかに体を地面で打って、しばらくヨウ起きなかった(起きることが出来 なかった)そうじゃ。
 なんでも、ぐんひんさんに会ったら、 いている草履を頭の上に載せて、額を地面にしっか こすりつけて、
「こらえてください。許してください。ぐんひん
 と言わなければならなかったそうな。どうでもぐんひんさんが、 っ赤に熱した鉄を飲む時に、ひどうにやられたそうな。十二 (真昼)が多かったんじゃげな。
(角増渉編者『ふるさと江田島』。話者 角増信女・明治二十九年生れ、松場キミヨ・明治三十九年生
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