世間話12 妖怪の奇異

海の主 (能美町)
 わしが ぁころのことじゃが、日暮れに船で沖へ出たんよ。夜の漁がエエ(良い)時分じゃったけえのう。もう夜中になったころじゃった。何か大きなもんが網に掛かりよった。闇夜 の海じゃけえ、何が掛かったんかわからんが、バチャバチャと大きな音を出して れるんで、船が揺れるんよ。引き揚げようとしても、重とうて がりゃあせん。困ってしもうてのう。そいで、手に合わんけえ、逃がそう思うて竹竿たけざおで網から外しにかかったんよ。そうしたら、そいつが竿にみ付きよってのう、とっても丈夫 な竿じゃったが割ってしもうた。オトロシュウ(恐ろしく)はなるし、どうしようもあんで弱っとったら、他の船が「どしたんの(どうしたのか)?」いうて寄って たんで、テゴウシテ(手伝って)もろうて、やっと網から したんよ。
 ホイデ(それで) けてもろうたお礼に、船にあった酒を出して乾杯したんじゃが
「今のは、ドウデモ の主でぇ」
 いう になった。
「そんなら、 めにゃあ」
 言うて、残りの を清め酒にして海へ流したんじゃった。
 あれぇなことは、 にも先にも無かったのう。
(話者 橋本卯一)