わしが若ぁころのことじゃが、日暮れに船で沖へ出たんよ。夜の漁がエエ(良い)時分じゃったけえのう。もう夜中になったころじゃった。何か大きな物が網に掛かりよった。闇夜の海じゃけえ、何が掛かったんかわからんが、バチャバチャと大きな音を出して暴れるんで、船が揺れるんよ。引き揚げようとしても、重とうて揚がりゃあせん。困ってしもうてのう。そいで、手に合わんけえ、逃がそう思うて竹竿で網から外しにかかったんよ。そうしたら、そいつが竿に噛み付きよってのう、とっても丈夫な竿じゃったが割ってしもうた。オトロシュウ(恐ろしく)はなるし、どうしようも無あんで弱っとったら、他の船が「どしたんの(どうしたのか)?」いうて寄って来たんで、テゴウシテ(手伝って)もろうて、やっと網から離したんよ。 ホイデ(それで)助けてもろうたお礼に、船にあった酒を出して乾杯したんじゃが、 「今のは、ドウデモ海の主でぇ」 いう話になった。 「そんなら、清めにゃあ」
言うて、残りの酒を清め酒にして海へ流したんじゃった。
あれぇなことは、後にも先にも無かったのう。
|