世間話15 妖怪の奇異

籠岩こもりいわの平家の亡霊(大柿町)
 迫之浦(大君の南)の奥から、さらに山の奥へ登った所に匿宮わかみや山がありますが、お籠岩はその中腹にある大きな岩です。中がかれたようになっていて、安徳天皇の行在所あんざいしょだったと伝えられています。陀峯山だぼうざんの頂上まで林道が出来たので、今では車で、天狗てんぐ岩を通ってお籠岩の近くまで行くことができますが、昔は、狭い急な山道を歩いて登ったものでした。私らが子どものころは、じょうの内には、はっきりわかる水田の跡があって、「こんな高い山奥に水田 を作るとは、昔の人は精を出して、ヨウ(よく)ガンバッタものよのう」と感心 したものでした。
 江戸時代の話です。大君に三郎右衛門 というお百姓さんがおりました。山や谷をいくつも えて、丈の内へ田を作りに行っておったそうです。ある日のこと、米を研いで釜に入れ、炊き上がってから、いざ食べようとふたを取って見たら、なんと飯が いんだそうです。
――おかしいのう、きつねにだまされたんだろうか。
 と思いながら、また気を取り直して を研ぎ、飯を炊いて、さあ食べようと蓋を取ったら、また が無い。誰かが食べてしまっていました。三度目も同じように、いつの にか先に食べられてしまって、とうとう七回も飯を炊いたのに、ついに食べるこ ができなかったんだそうです。
――こりゃあ やなんかじゃあるまい。
 と思った途端に、突然背筋 が寒くなって、髪の毛が逆立ちました。三郎右衛門は一目散に山道を走って里へ帰って来ました。里の が見える「よしがいち川」(現在の大君川)を渡ると、さすがの妖怪 もあきらめたのか、
「炊くも炊いたり、食うも食うたり、七鍋ながら口惜くちおしや」
 と怒鳴って、 へ帰って行ったそうです。
 息も絶え絶えになって我が家にたどり着いた三郎右衛門 は、パッタリと地べたに倒れて、そのまま息を引き ってしまったということです。
(話者 君川敏雄)