世間話17 動物の不思議

秋月のきつね(江田島町)
 昭和の めごろのことよのう。わしが大イリノ(俗称インノ)の山の畑へ行った時のことよ。前に谷があって、小川 がある、その向こう側に、ヒョッと見ると狐がおるじゃないか。口がんがって、ひげをピンと張って、ちょうどお稲荷さんの前に巻き をくわえて座っとる、あれとそっくりよ、毛がきれいでのう。
――コンナァ(こいつを) まえちゃろう。
 思うて、わしが小川を渡って行ったら、狐は羊歯しだの中へ逃げ込んでしもうた。羊歯を潜って探してみたが、 はおらず、狐の穴も見つからんかった。ほいじゃけえ、秋月の山には昭和 の初めごろまで、ホンマに狐がおったんでえ。わしよりほかにも、昭和になって狐を見たり き声を聞いたりした者が、ヨウケ(たくさん)おるけえ う。
 『ふるさと江田島 ―江田島の民話―』(角増渉編著。さつき出版・昭和五十二年(一九七七)刊)の「狐族の大移動」によると、海軍 兵学校(現在の海上自衛隊第一術科学校)が江田島に来るまでは、その敷地にあったおたか神社の境内近辺の森を根拠地として狐族の大親分がおったそうなが、兵学校 の工事が始まったら、ダイナマイトで爆破するやら、鉄砲 で撃たれて死ぬ狐も出るやらで、「コリャア(これは)ここにおっちゃあ危なア」いうんで、一族 は吉浦へ渡ったいうことになっとる。明治 十九年(一八八六)十月十八日の夜のことよ、大親分の命令で、一匹が美人に化け、もう一匹はを小判に変えて、二匹で秋月の船主をだまくらかして船を支度したくさせ、一族揃って吉浦へ渡ったいう話じゃが、その船に乗り遅れたボヤ助の もおったんじゃろうよのう。
(話者 平崎力男)